【イベントレポート】全国初!山梨県で実現する『二拠点企業経営』の魅力とは?~実践企業から学ぶこれからの新しい企業経営~
2022.03.28 更新
二拠点企業経営とは都市と地方の経営資源を活かしたハイブリッドな事業戦略を実行し、防災・BCP対策、地方における人材確保・育成、地域資源を活用した新産業の創出などに取り組む新たな経営スタイルです。
そんな「二拠点企業経営」をテーマにした、山梨県主催のオンラインイベント【山梨県で実現する『二拠点企業経営』の魅力とは?〜実践企業から学ぶこれからの新しい企業経営〜】が、3/16(水)に開催されました。
帝国データバンクの調査によると、2021年に本社移転やサテライトオフィス進出など首都圏から地方へ本社を移した企業の数は351社にのぼります。その中でも特に二拠点企業経営に取り組む企業が増えているのが山梨県です。同県に進出する企業は新規事業開発、既存事業の変革、人材採用など攻めの二拠点企業経営を実現しています。
今回のイベントでは関西大学社会学部教授の松下氏、山梨大学総合研究部教授の田中氏による基調講演と、お二人を交えたパネルディスカッションを実施。さらに山梨県で様々なビジネスを展開し、進出の相談も受けているヴィジョナリーパワーの戸田氏、小菅村に本社移転をされたFar Yeast Brewingの山田氏、富士吉田市にサテライトオフィスを開設されたキャップクラウドの松永氏をお迎えして、都市部の企業が「二拠点企業経営」を行う魅力と、山梨に進出してイノベーション創出をする企業の実態に迫りました。本記事では当日の様子をレポートしていきます。
1:オープニング
初めにイベントモデレーターを務めるパソナJOB HUBソーシャルイノベーション部の山口春菜より、今回のイベントの流れや参加に関する注意事項の説明がありました。
2:基調講演① 関西大学社会学部教授 松下 慶太 氏
続いて基調講演として、ワーケーションなど新しいワークスタイルの研究をされている関西大学社会学部教授の松下氏より、ワークスタイルの観点から山梨県のポテンシャルについてお話しいただきました。
登壇者プロフィール
関西大学社会学部教授
松下 慶太 氏
1977年神戸市生まれ。博士(文学)。京都大学文学研究科、フィンランド・タンペレ大学ハイパーメディア研究所研究員、実践女子大学人間社会学部専任講師・准教授、ベルリン工科大学訪問研究員などを経て現職。専門はメディア論、コミュニケーション・デザイン。近年はワーケーション、デジタル・ノマド、コワーキング・スペースなどメディア・テクノロジーによる新しい働き方・働く場所と若者、都市・地域との関連を研究。近著に『ワーケーション企画入門』(学芸出版社、2022)、『ワークスタイル・アフターコロナ』(イースト・プレス、2021)、『モバイルメディア時代の働き方』(勁草書房、 2019、 テレコム社会科学賞入賞)、分担執筆に「Reconfiguring Workplaces in Urban and Rural Areas」(Mascha & Caroline 2021)など。note: https://note.com/matsulab
2022年以降はフル通勤ワーカー・ハイブリッドワーカー・フルリモートワーカー・ワーケーションワーカーなど、さらにワーカーの多様化が進んでいくとのこと。働き方においても個々のペースや嗜好を尊重して、自分たちのスタイルや共感を大事にする傾向が高まり、自由な発想を元に様々なプロジェクトが立ち上がっていく時代になるというお話が印象的でした。
また企業の人事戦略・採用戦略を考える上では、「テレワークの対応をどのように進めていくのか」「出社して働く対面価値をどう再定義し、新たな価値を創造していくのか」といった、多様な働き方を受けいれるための制度設計が大事になり、そうした取り組みが組織への愛着や一体感を生み出すということでした。
二拠点企業経営はこうした多様な働き方に対応する新しい経営スタイルとして注目されています。それを実現するために立地や環境面でフィットしているのが山梨県であり、山梨県独自のワークスタイルが確立されていくことも期待されています。
3:基調講演② 山梨大学総合研究部教授 田中 敦 氏
多角的にワーケーションなどの研究している山梨大学総合研究部教授の田中氏からは、これまでご自身がイントレプレナーとして事業開発を担ってきた経験から、二拠点企業経営の効果について講演していただきました。
登壇者プロフィール
山梨大学総合研究部生命環境学域社会科学系長地域社会システム学科長教授
田中 敦 氏
JTBに入社、米国本社企画部、欧州支配人室人事部や首都圏営業本部(総務部人事・労務担当)、 国際旅行事業部(訪日インセンティブ、国際会議)を経て、2000年に福利厚生アウトソーシング業である(株)JTBベネフィットの社内ベンチャー制度を活用して起業。創業取締役として、コンサルティング営業からサービスの企画開発、オペレーション設計や経営全般に携わり、2名からスタートした会社を5年間で業界2位、社員数200名以上の規模の会社に急成長させた。 その後、JTBグループ本社事業創造本部事業開発室長として新規事業開発、JTBモチベーションズ(人材コンサルティング部門長)等を経て、2012年にJTB総合研究所に主席研究員として参画。JTBモチベーションズでは、個人や組織のモチベーション向上やキャリアデザインのコンサルティングを、またJTB総合研究所では観光経営に必要な人材の育成や地域交流ビジネスに携わる。 2016年に国立大学法人山梨大学が観光政策科学特別コースを新設した際に転進し、現職。
実際に山梨大学とクロスマーケティング社の「ワーケーションに関する調査」において、ワーケーション経験者・テレワーク経験者・非テレワーク者それぞれのエンゲージメントを比較したところ、ワーケーション経験者のエンゲージメントが高い傾向にあるという調査結果が示されました。
また二拠点企業経営は従業員のエンゲージメント向上だけでなく、これまで出会うことのなかった新たなタレント人材の採用や、積極的な地域との交流によるビジネスチャンスやイノベーション創出などの効果も期待できるということです。
ワーケーションや二拠点企業経営のような取り組みにポジティブな反応を示す人は、イノベーター型・自律型の人材が多いため、さらなる働き方の多様化に伴い二拠点企業経営を実践する企業が増えれば、都市部と適度な距離を保ちつつ往来しやすい、住環境としても魅力的な山梨県に注目が集まりそうです。
4:パネルディスカッション①
『アカデミックな視点から二拠点企業経営について考える』
引き続き、関西大学社会学部教授の松下氏と山梨大学総合研究部教授の田中氏を交え、パネルディスカッションを行いました。ファシリテーターは弊社の加藤遼が務めました。
パネルディスカッション ファシリテーター
株式会社パソナJOB HUB 事業開発部長 兼 ソーシャルイノベーション部長
株式会社VISIT東北 取締役 加藤 遼
パソナ入社後、大手から中小/ベンチャーまで幅広い業界/業種/規模の企業の人財採用/育成/活用支援に携わった後、行政/企業/NPOなどと連携して、若者雇用/東北復興/海外展開/地方創生/観光立国/シェアリングエコノミーなどをテーマにした事業企画/開発/立上に取り組む。直近は、地域複業/ワーケーション/地方創生テレワーク推進を通じた新しい働き方の創造と地域活性化や、プロフェッショナル人財活用による新規事業開発支援やサステナブル経営支援に取り組む。また、地域活性化ベンチャーファンドの事務局として、起業家の発掘/育成/事業開発支援に取り組み、出資先であるVISIT東北の取締役も兼務。その他に、政府・自治体の政策委員や講演活動、NPOのマーケティング支援などにも参加している。内閣官房シェアリングエコノミー伝道師/総務省地域情報化アドバイザー/総務省地域力創造アドバイザー/多摩大学大学院特別招聘フェロー/NPOサポートセンター理事
■二拠点企業経営の取り組みが拡がる背景
加藤:そもそもどのような背景から、二拠点企業経営に取り組む企業が拡大しているのでしょうか?
田中氏:働き方の変化に伴う職場環境や経費構造の見直しなど、最初のきっかけは様々だと思います。その中で経営に必要な機能を切り出したり分散させたりしつつも、完全にリモート化するのではなく、人が集まることにメリットや価値を見出している企業が二拠点企業経営を始めている印象です。
そうした企業が実験的に取り組んでみたところ、想像以上に働きやすさを感じる社員が多く、BCPや地域での雇用の観点など様々な副次的効果もあり、二拠点企業経営に舵を切る企業が徐々に増えているのだと思います。
松下氏:これまでは都市部に本社機能を置き、そこに管理部門や開発拠点などリソースを集積する企業が多くありました。ただ多くの場合、そこでイノベーションが起きていないということも背景の一つだと考えています。
私はワーケーションの事例などでよくStyle・Story・Stimulate(刺激)という3つのSの重要性をお伝えしています。自分たちの経営や働き方のスタイルを構築し、企業として大切にしたい価値観=ストーリーを持ち合わせていて、人が地域とつながることで刺激が生まれる。この3つのSが備わっていることで企業に人材が集まりイノベーションがもたらされて、良い経営につながるのだと思います。
■二拠点企業経営を推進するにあたっての課題
加藤:二拠点企業経営に取り組む上での課題として、どのようなことが挙げられますか?
田中氏:二拠点企業経営は、これまで一つに集約していたものを二つに分けることで得られるメリットがデメリットを上回らなければ成立しません。特にコミュニケーション面で、いまでも対面を主体としている企業は少なくないですし、物理的に目が行き届かない環境でどこまで社員を信頼して任せることができるかという、経営の度量も試されます。これからトライ&エラーで作り上げていくという気持ちで取り組まなければ推進することは難しいでしょう。
松下氏:企業のマネジメント層が、オンラインとオフラインの経験価値について正しく理解することも大事だと考えています。本来はオンラインでもオフラインでも、形が変わっても本質は同じであるべきなので、本質を捉えた上で現状をどう変えていくかという議論を深めない限り、多くの課題に直面することになると思います。
5:パネルディスカッション②
『山梨で行う二拠点企業経営のススメ』
続いてのパネルディスカッションでは、実際に山梨県で二拠点企業経営に取り組まれている企業の皆さまに、人材採用や事業成長などの観点でリアルなお話を伺いました。
ヴィジョナリーパワー株式会社
代表取締役 戸田 達昭氏
1983年 静岡県藤枝市生まれ。山梨大学大学院在学中に起業した山梨県初の学生起業家。 卒業後にバイオベンチャー企業「シナプテック株式会社」を設立し、代表取締役に就任。 また、起業・創業の分野に力を注いでおり、アクセラレーターとしても活動中。 起業・創業したい人へビジネスプランづくり支援を行うMt.Fujiイノベーションキャンプの実施や山梨大学の学生向けに『未来デザインアカデミー』を実施。 現在は、起業家支援に情熱を注ぐ傍ら、「ヴィジョナリーパワー」を設立し電力事業も行う。 一方で産学官民協働による地域づくりに取り組み、第6期中央教育審議会生涯学習分科会委員をはじめ、教育関連機関や地域市民団体の代表や委員を務める。
Far Yeast Brewing株式会社
社長 山田 司朗氏
大学卒業後、インターネット業界で活躍した後、2005年ケンブリッジ大学にてMBAを取得。3年間の欧州生活中に多様なビール文化に触れる。2011年にクラフトビール製造販売の Far Yeast Brewing 株式会社を東京都に設立し、代表取締役就任。2020年には醸造所のある山梨県小菅村に本社を移転し、地域での取り組みを強化している。現在、国内外に直営飲食店4店舗を運営し、代表銘柄である「馨和 KAGUA」「Far Yeast」は、世界25カ国で販売されている。また、山梨を盛り上げようという思いから「山梨応援プロジェクト」として源流醸造所のある山梨県の素材を使い、地元農家と連携した果物を使ったクラフトビール製造や廃棄予定のワイン用ぶどうをアップサイクルしたクラフトビール等、地域を巻き込んだ商品開発を実践している。
キャップクラウド株式会社
執行役員 兼 社長室室長 松永 文音氏
東京生まれ、東京育ち。2018年7月ごろから東京と富士吉田の2拠点生活開始。富士吉田市にあるコワーキングスペース/シェアオフィス「ドットワーク富士吉田」の立ち上げを担当し、現在は富士吉田で展開しているプロジェクトの事業統括責任者として市内の関係人口増加を目的としたイベント運営等を積極的に行っている。ドットワーク富士吉田は社内にとってのサテライトオフィスとしての機能を持ち、施設開設後からUターン者やIターン者など優秀な人材の採用に成功し、地域での雇用創出や関係人口増加に貢献している。また、2020年には「働く場所」と「働く時間」を一人ひとりが選択できるようにした制度「働き方選択制度」の制度設計に関わり、会社の理念である「働き方、パーソナライズ」を社内に定着させた。2022年2月には内閣府のテレワークに先進的に取り組む企業などを表彰する「地方創生テレワークアワード(地方創生大臣賞)」も受賞。
■二拠点企業経営に取り組む企業の人材採用の実情
加藤:二拠点企業経営に取り組む中で、人材の採用に関して課題はありますか?
松永氏:東京から山梨に移ってきた際に、求人に富士吉田の地名を入れてみたところ、思いのほか多くの反響がありました。東京と同じような仕事を続けながら、「地元に帰ってきて欲しい」という両親の願いを叶えることができるのであれば山梨で働きたいという人から応募があったり、移住をするために仕事を探していた人が当社の求人を見つけてくれたり、想像していなかった良い出会いがありました。
東京に本社を構えていた時は他のIT企業の求人に埋もれないように、求人広告を有料掲載していましたが、山梨に来てからは無料で15名ほどの採用を実現できています。
山田氏:当社が製造しているクラフトビールは、ほとんどが地方で造られているので、小菅村に工場を構えてからも「ビール造りをしたい」という製造担当者の採用にはそれほど困りませんでした。営業やマーケティング、管理部門など一般職種の採用には少し苦労しましたが、それでも小菅村に移ってから8名の人材を採用できています。都市部で求人掲載をするよりも求人が差別化されて目立ちやすいのは、採用における一つのメリットだと思います。
戸田氏:多くの若者が「とりあえず東京で働こう」と考えて県外に出てしまうので、山梨県は人材流出拠点といわれています。ただ、県内で二拠点企業経営に取り組む企業があることを広く知ってもらう機会を設けることができれば、山梨で働く選択をする人が増えて、人材流出を止めるきっかけにもなると感じました。
■二拠点企業経営による既存事業の成長や事業開発の可能性
加藤:既存事業の成長や事業開発という観点でみると、山梨での二拠点企業経営はいかがでしょうか?
山田氏:山梨県の人口は約80万人で、GDPもそれほど大きな規模ではありません。そのため県内でビジネスを拡大するのではなく、山梨県の魅力を発信しながら全国に商品をPRしていくというポジショニングで事業に取り組んでいます。例えば、2020年から山梨応援プロジェクトを始めました。これは山梨の資源を使ってビールを造る取り組みなのですが、なかでも桃を使ったビールは告知すると予約時点で売り切れてしまうほど人気です。桃は傷つきやすいのでどうしても贈答用の商品として適さないものが出てしまうのですが、私たちがそうした桃をビールにして販売することで生産者の方たちからも喜ばれます。大手企業とも同様の取り組みを行ったこともありますし、お互いにとってメリットのある形を模索して地域を上手くPRしながら世界に向けて販路を拡大しています。
松永氏:富士吉田で事業に取り組むメリットは大きく2つあると感じています。一つは広報・PR効果、もう一つはお客様のサービス購入時の安心感です。当社は山梨県に移転してから、コワーキングスペースと短期滞在施設の運営に取り組み始めました。どちらも利用していただきやすいようにリーズナブルな料金体系にしているので、直接的な収益はほとんど見込めませんが、県の内外からお越しいただく方々との交流により新たな価値が生まれています。また新聞、テレビ、ラジオ、Webなど様々なメディアに数え切れないくらい取り上げられたことで、それが当社やIT関連の事業について知っていただくきっかけになり、結果としてお客様のサービス購入時の安心感につながっています。
戸田氏:大企業が山梨でいきなり数十億、数百億規模の事業を作るというのは現実的ではないですが、地域で新しい事業を試して、それが上手く行けば全国に展開するというアプローチは可能だと考えています。また、中小企業であっても本業に直結するようなコラボレーションを生み出すなど、企業が二拠点企業経営に取り組む目的に応じたアプローチができると思います。
6:山梨県からのご案内
最後に二拠点企業経営を検討している企業の皆さまに向けて、弊社の山口春菜より山梨県が提供しているサービスやサポートについてご紹介しました。
二拠点居住推進センターでの相談受付や、各種セミナーやワーケーションツアーなどのイベント、補助金・支援金制度など、山梨県は二拠点企業経営に関心のある企業の皆さまに充実したサポート体制を整えています。こうした手厚い支援が受けられることも、企業が山梨県で二拠点企業経営を実践する後押しになっているようです。
~イベント参加者のコメント~ ※一部抜粋
・社会的潮流の中での二拠点企業経営の可能性を確認できました。
・都心ではなぜイノベーションが起きないか働き方自体を考え直すきっかけになりました。
・山梨で拠点を構えて企業経営をされるストーリーを拝聴することができて、今後の仕事としての取り組みや働き方・生き方の参考になりました。
7:まとめ
二拠点企業経営は時代の変化にフィットした新たな経営スタイルとして徐々に広がりつつあり、企業と働き手、そして地域にとってもメリットがあることがわかりました。今後、働き方の多様化がさらに進んでいけば、企業経営における一つの現実的な選択肢となり得るでしょう。
一方で、まだ明確に体系化されたモデルがないため、実践する企業は試行錯誤をしながら自社に合う環境や二拠点企業経営のスタイルを模索していく必要があります。そうした時に、いくつもの先行事例があり支援制度が整っている山梨県は、二拠点企業経営の実践と検証の場として適した環境だといえそうです。
企業が働き手や地域にもメリットがある形を模索し、楽しみながら二拠点企業経営実現に向けた環境を整えていくことで、今まで気づかなかった新たな可能性や価値の発見につながるかもしれません。このレポートを通じて多くの企業の皆さまが、山梨県での二拠点企業経営に興味を持っていただければ嬉しく思います。
最後までお読み頂きましてありがとうございました。
主催:山梨県
企画・運営:株式会社パソナJOB HUB
レポート作成:株式会社パソナJOB HUB
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