アトツギと考える -地域の活性化と社会課題解決‐【イベントレポート】
2025.02.06 更新
アトツギ(後継者・後継者候補)は地域経済の担い手であり、イノベーションを起こす担い手であり、社会課題を解決する担い手でもあります。2024年11月11日(月)に香川県琴平町で、アトツギが集まりこれからの事業戦略や地域の可能性を探るトークセッション&交流イベントが開催されました。
本記事では、香川県琴平町で新規事業や地域課題の解決に取り組む「アトツギ」である株式会社KONPIRA DROP STORIES 代表取締役 五人百姓 池商店の28代目・池龍太郎氏、琴平バス株式会社の3代目・楠木泰二朗氏、琴平町商工会の住谷健治氏、そして地域コーディネーターの株式会社地方創生 近江淳氏のパネルディスカッションの模様をお届けします。「アトツギと考える地域の活性化と社会課題解決」と題し、アトツギとしての強みや事業に取り組む姿勢、支援機関から見たアトツギならではの悩み、今後の琴平町の展望などが語られました。
~ 登壇者ご紹介 ~
株式会社KONPIRA DROP STORIES
五人百姓 池商店 28代目 代表取締役 池 龍太郎 氏
1992年生まれ。香川県琴平町出身。金刀比羅宮の参道にて石段を駆け回って育つ。 大学卒業後、地元香川県の地方銀行に就職。琴平町役場へと転職し、地元を知り、良くするために力を注ぐ。 コロナ禍に家業を未来に残すこと、地域のために自分しかできないことをやろうと金刀比羅宮の参道にある家業の「五人百姓 池商店」を全面改装し、28代目として継承。現在は、町の歴史や文化を繋ぐ語り部としても全国へ足を運び活動している。
琴平バス株式会社
代表取締役 楠木 泰二朗 氏
香川県生まれ。大学を卒業して家業である新日本ツーリスト㈱(現 ㈱コトバス・コミュニケーションズ)へ入社。キャブステーショングループへの出向を経て現在に至る。“Something New” “Connected mind”をコアバリューとし、うどんタクシー、地域共有交通 琴平mobi、コロナ禍ではオンラインバスツアーが注目を集める。日本サービス大賞 地方創生大臣賞、かがわ21世紀大賞受賞。2023年より四国初のデジタルノマド向けコリビング「Kotori Coworking&Hostel」を開業。 趣味はうどん屋巡り。日本ご当地タクシー協会理事長。シェアリングエコノミー協会香川統括。
琴平町商工会
経営指導員 住谷 健治 氏
大学卒業後、大阪で信用金庫に就職し6年間勤務。その後、事業者に対し、より様々な面から支援を行える仕事がしたいと商工会の経営指導員になる。商工会に入って10年、主に小規模事業者の税務、労務から、販売開拓、資金操りなどの経営支援業務を行う。
株式会社地方創生
代表取締役 近江 淳氏
埼玉県生まれ。パソナ(現パソナグループ)で企業広報、グループ広報などを担当。2008年に㈱広報戦略室設立。2014年、商号を㈱地方創生に変更し、パソナグループの一員として「地方創生」にベクトルを合わせ、地方自治体の「シティプロモーション事業」などに取り組む。2020年より香川県琴平町の『新町商店街』の空き店舗の再開発による活性化に取り組み、『琴平文具店』『呑象ブリューイング』を開業。2024年には商店街に宿泊施設や日本茶カフェ、ベーグルショップをオープンし、『地域まるごとホテル』を始動した。
アトツギとして地域課題を意識しながら事業に取り組みはじめたきっかけ
近江 淳氏(以下、近江)
ここからは、アトツギとして「地域課題」を意識しながら事業に取り組みはじめたきっかけと意識していることについてお伺いします。池さんは、コロナ禍がきっかけで地域の方々に明るいニュースを提供したいという想いから琴平地域とつながったと先ほどお伺いしましたが、地域とのつながりの中で今後考えられていることはありますか。
池龍 太郎氏(以下、池)
意識していることは、継ぐことを決断した人たちが楽しく地域で生活し、活動し、仕事をしている姿を見せることです。僕が子供の時は、石段の子供が上のシャッターから下のシャッターをどんどんノックして集団登校ができていましたが、少子化が進み、自分の子供の代ではできません。もう今は、あの楽しい朝の登校ができなくて。ただ、紹介したい人が目の前に歩いてきたり、うどん屋さんで隣のカウンターに座ったりとコンパクトな街の中で良い偶然がたくさん起きています。街への想いや楽しく活動している姿を街の人に見せることがすごく大切で、琴平で自分もなにかやりたいと思ってもらいたいです。
楠木 泰二朗氏(以下、楠木)
僕は、そんなに意識していないのですが(笑)コロナ禍をきっかけに、琴平が積極的に変わってきた中で、スタートアップとアトツギをミックスするといいなと思っています。アトツギだからとか起業しているとか関係なく琴平にいる人たちが輝ける場を提供したいです。
アトツギに関わる商工会の相談内容
近江:住谷さんには、アトツギがどんな悩みを抱えて商工会さんに相談に来られるのかお伺いしたいと思います。
住谷 健治氏(以下、住谷):琴平町で言いますと、アトツギという視点で見ると、親族内承継が主となります。その中で青年部(45歳以下の後継者・若手で起業した方が所属)の後継者の方々と接する機会が多いのですが、よくお伺いするお話が、親とどうしても親子喧嘩になってしまうというご相談です。例えば、今までやっていることが後継者は気に食わないし、親は後継者が新しいことを始めるにあたってなぜ相談しないんだというような想いをもたれているので、我々は商工会という立場で両方の話を聞いて、間に入って潤滑油的な役割をすることが仕事かなと思っています。
近江:地域課題を解決するために、アトツギから自社事業を通じた解決策の提案やご相談はあるのでしょうか。
住谷:そうですね。先代よりも30代・40代の後継者のほうが少子高齢化などの人口減少に課題意識を持たれている方が多いので、他の後継者と一緒に何かできないかというようなご相談が多いですね。
近江:ありがとうございます!他の後継者と一緒に取り組んでいきたいという想いを持ったアトツギがたくさんいらっしゃるのですね。
町内事業者と連携している取り組みの事例
近江:町内事業者さんと同じような想いを持って、連携しながら取り組んでいることについて具体例があればお伺いしたいです。
池:町内で「家業に入ろうかなと思い始めたきっかけになりました。」と言ってくれることが増えています。僕は琴平で生まれ育ったので、琴平での体験や、叩き込まれたいろいろな琴平の歴史を、地域外の方に伝える活動をしています。琴平に来てくださった方全員に僕からご案内することは難しいので、僕の話を聞いてもらった方に家族や友達を連れてきていただくことで小さな観光大使をたくさん作ることを心がけています。実際に近江さんのもとで台湾から働きにきている従業員さんが家族で琴平を訪れてくださり、「池さんから教えていただいたところを家族で巡ります。」と言ってくださってすごく嬉しかったです。
近江:楠木さんからはデジタルノマドのお話もいただきましたが、企業との連携、特に町外県外の企業さんと共に創る「共創」について意識されて取り組まれているかと思います。ご紹介いただけますか?
楠木:それこそ近江さんと一緒にやっているので全部知っていると思うのですが(笑)株式会社アドレスとの取り組みもその1つで、関係企業として地域に関わってもらう、あるいは同じようなコンセプトや価値観を持っている地域との連携、いわゆる関係地域のようなものをたくさん生んでいって、相互に価値を生み出していこうという取り組みを行っています。
近江:具体的にどんな会社さんとどんな風にですか?
楠木:1つは株式会社アドレスさん。もう1つは関西電力グループさんと行っています。ちょうど今月は脱炭素をテーマに、琴平でサステナビリティを作るために、なにができるかについて琴平をある種実験場にして取り組んでいます。
近江:先日開催した大イベントがあったじゃないですか。
楠木:その話ですか(笑)関西電力グループの旅行会社 TRAPOL(トラポル)さんと3年ぐらい交流があるのですが、社員旅行でTRAPOLさんの社員さん20人と琴平町メンバー20人で運動会を開催し、綱引きや騎馬戦をしました。
地域にとって、地域外の方との関わりを作ることはすごく意味があると思いますし、関電さんも、地方で何かに取り組むことにすごく興味関心を持たれていまして、そんな関係づくりに取り組んでいます。
近江:TRAPOLさんも、旅を通じていろいろな地域を知り、知った人たちがその地域に何度も訪れるという仕掛けづくりを成功させていて、そんな会社が琴平の濃密な関係人口になっていることは素敵ですね。
空き店舗を活用した創業支援
近江:実際に琴平町が抱えている課題で、商工会としてどういった解決策を提供しているのかご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
住谷:琴平町として、香川県に要望を出しまして、県から補助を出してもらって「空き店舗活用補助金」を始めています。ちょうど僕が入社してすぐは、こんぴらさん近くの新町商店街には、地域の大手ではないスーパーもありましたが、どんどんお店を畳み始め、空き店舗が目立つようになりました。閉まったお店を創業者が改装して始めるとき、最初の負担が大きいため、補助金を活用して、お店をオープンするハードルを下げるような補助を考えました。店舗を貸す側からすると貸しやすくなりまして、僕が入社して10年で大体8店舗ほど補助金を活用して店舗を増やしていくことに取り組みました。
近江:ありがとうございます。1989年 に70店舗あったところ現在25店舗まで減少していて、まだまだ元の店舗数には届きませんが、少しでも店舗を増やしていこうという取り組みですよね。チャレンジショップというかたちで閉店したカフェの経営にチャレンジしたい人たちを募集していますが、そういう人たちもまた濃密な関係人口になり、一緒にやりたいと思ってくださる人たちと地域を盛りあげたいという想いを込めて取り組まれているのですね。
アトツギであることのメリット
近江:池さんは、28代目ですが、新規事業やイノベーションを起こすとき、アトツギとしての土台があるからこそできていることはありますか?
池:先祖代々、金刀比羅宮の琴平ご利郡の益飴というものを作らせていただいております。こんぴらさんには、足の悪い方のような、行きたいけど来られない方が代理参拝でもご利益を受けられると昔から言い伝えられており、こんぴらさんが人気の理由でもあります。そのような想いを結晶にしたものが、うちの加美代飴というご利益飴です。この事業を通じて、「誰かのために」という想いで来てくれた方々のご利益をつむことで付加価値がつき、また、香川県のいろいろな農家さんからいただいたフルーツをうちの飴に閉じ込めて、新たな価値を付けていきたいと思っています。うちは神社ですが、お寺でも記念のものとして飴を選んでいただけるように展開したいです。また、うちのご利益飴を結婚式などお祝い事の際に、引き出物として渡していただくことも考えています。人口もどんどん減少し結婚式の引き出物もギフトカードなど簡略化されている中で、幸せを分ける文化は日本人らしい良い文化だと思っているので、うちの飴を通して伝えていきたいです。
近江:ありがとうございます。
私も琴平で一緒に発信していきたいと思います。よろしくお願いします。楠木さんはいかがでしょうか?
楠木:ちなみにですが、アトツギの方って今日何人いらっしゃいますか?僕自身、若い時はいわゆるベンチャー企業の方がかっこよく見えると思っていました。話は逸れますが、ついこの間選挙がありましたよね。選挙の度に世襲議員の話が出ていて、ジバン・カンバン・カバンを引き継ぐ事など世襲社長とか言われるのは格好よくないなと思ったりもしますが、事業を通じた地域課題解決を目指す場合、すでに地域での信用や経済基盤がある方が何かとやりやすいです。地方のアトツギはそういったアドバンテージをうまく活用できると思います。
近江:ありがとうございます。アドバンテージをあまり意識してない方々も、存分に活かせるのではと思われているということですよね?
楠木:そうですね。若い時って、自分自身もアドバンテージを使うことが格好悪いと感じていたのですが、使わないのはもったいないと思います。
近江:ありがとうございます。商工会さんでは、親族内承継で、アトツギとしての土台を行かす具体的なアドバイスはされますか?
住谷:アトツギ本人は気付いていないのですが、地元にいるとアトツギの存在を街の人が知っているので、物事の最初のやりやすさが違います。それは支援機関も感じていて、楠木さんもおっしゃっていた、あまりアトツギのアドバンテージを使いたくないという想いもあるとは思いますが、最初の物事のやりやすさが全然違うということは、今後アドバイスしたいです。
近江:ありがとうございます!ここからは会場の皆さんに質問していただこうと思います。
琴平の今後のあるべき姿とは
参加者からの質問:
琴平の先頭集団であられる皆さんにお伺いしたいことがあります。例えば琴平にはすごく美しい昔からの文化があって、そういったところをアップデートしながら、美しい琴平であり続けるべきだと思うのか、はたまた色恋の復活といったいろんな表情を見せるような琴平を作っていきたいのかについてお伺いしたいです。
楠木:いいと思いますね!あくまで個人的な意見ですが、今、やっていることって一つに束ねないといけないわけではなく、みんながやりたい世界を作れば良いと思います。複数のシナリオがいっぱいあって、カオスに絡まっていることが琴平の街だと思っています。
池:想像してない質問が飛んできました。実際、その名残の場所とか、歴史的意味のあるもの、光らそうと思えば光らせられるところはたくさんあると思います。例えば、新町商店街の角の旅館の壁に石の柱が刺さっているところがあります。あれは遊廓との境界線の名残で、歴史的にとても価値があります。歴史って後から作れないので、歴史を築いてきてくれた方、この町を作ってくれた先人の方たちが作った事業や場所は地域特有のもので武器だと思います。ただ、今街全体で昼に対して夜が弱い。「この後どこに行きますか?」と聞くとほとんどが「道後温泉や父母ヶ浜に行きます。」とおっしゃいます。夜も居たい街であるべきですよね。300年続いている旅館さんでも、この街の空気感や街の人と同じものを体験してもらいたいという想いのもと、ご飯が出ない宿を作られています。ニーズも変わってきていて、出会いを求めて旅をする人が増えているので、街の在り方として考えているところは同じだと思います。
住谷:夜の飲食店マップを昨年一昨年と作りまして、宿泊されている方がご飯は外で召し上がるパターンが増えてきています。この質問を受けて、商工会でもまたマップの作成をするなどできる範囲でご協力したいと思います。
近江:この間も、なかなか飲む機会がないということで、琴平で8件ハシゴしました。そういう楽しみ方を皆さんに知らせていきたいなと思います。
池:あの行程表を見て絶対無理だと思いましたが、意外といけましたね。
近江:ローカルの話題ですみません(笑)
最後に一言メッセージ
池:自分の子供が成長するまでに継ぎたいと思える状態にしておきたいです。この街で住み続けたいと思ってもらいつつ、選択肢として商売も大きくしてあげることが受け継いだ者の仕事だと思っています。とても面白い人がたくさん琴平に集まっているので、みなさんで連携しながら、琴平町全体を盛り上げて、次世代が住んでいきたいと思えるような地域を作っていきたいです。
楠木:今日もありがとうございました。琴平町にはアトツギが多いなと思いました。アトツギがイケてるって感じになったらなんか良いっすよね。風の人・土の人が風土を作るという話があるように、アトツギやスタートアップ関係なくうまくミックスさせてイノベーションを起こしていきましょう。
住谷:商工会としても、琴平を盛り上げていきたいという想いを持った人たちと一緒に語りあえるような会を企画できたらと思いますので、みなさんどうぞ参加してください。
近江:これからますます琴平も面白くなってくると思いますので、ぜひ皆さんも一緒に琴平を盛り上げていきましょう。本日はありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
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最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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