【事業レポート】山形県「地域・企業共創による関係人口拡大モデル事業」 山形県3地域と都市部企業によるフィールドワーク
2025.03.27 更新
山形県の地域課題を有する農村地域「尾花沢市中刈地区」、「真室川町釜淵地区」、「鶴岡市温海地域」にて、関係人口の創出を目的に、都市部企業が地域体験や地域交流を行うフィールドワークを実施しました。本レポートでは、事業の概要や3地域でのフィールドワークの様子、参加いただいた都市部企業と地域の連携可能性などをご紹介します。
1.山形県「地域・企業共創による関係人口拡大モデル事業」について
本事業は地域活力を持続的に創出するため、地域課題を有する農村地域と都市部企業を『地域課題(=関わりしろ)』で繋ぎ、双方がWin-Winの関係性を築くモデルを構築し、関係人口の拡大・深化を図る事業です。また、「農村地域と企業とのマッチング支援事業」と連携した事業であり、事前の地域選定により3地域(尾花沢市中刈地区、真室川町釜淵地区、鶴岡市温海地域)が決定し、それぞれの地域課題や地域の強みとマッチングした都市部企業が地域でのフィールドワークを実施しました。
2.3地域と都市部企業のご紹介
①尾花沢市中刈地区
尾花沢市の観光名所「銀山温泉」から車で20分の場所に位置しており、やまがたの棚田20選に選ばれている「高橋の棚田」で作る棚田米「雪きらり」は尾花沢市のふるさと納税の返礼品に採用されており、毎年早々に完売するほど人気があります。中刈地区では、人口減少・高齢化・耕作放棄地の増加などの地域課題を抱えていますが、集落全体で地域行事である中刈雪まつりや集落でのイルミネーションなど地域主導の取り組みを行っています。
▲高橋の棚田 ▲棚田米「雪きらり」のおにぎり
<尾花沢市中刈地区とマッチングした都市部企業> ※左から会社名(企業紹介・所在地)
・株式会社アグリエール(食・農に関わるブランディング/東京都)
・アルファコム株式会社(ITソリューション事業や企業や行政向けシステム開発/東京都)
②真室川町釜淵地区
山形新幹線終点の新庄駅から車で40分の場所に位置しており、7月下旬の豪雨災害にて最上川が氾濫したことで、大規模な浸水被害を受けた地域でもあります。森林資源が豊富なため、かつては林業で栄えた地域であり、伝承野菜や米作り、山菜など食資源が豊富な地域です。300年近い歴史を持つ伝承芸能「釜淵番楽」はいまなお若者世代へと引き継がれ、地域食材を使った食事をいただきながら舞台を楽しむ「行灯番楽」が地域を象徴する祭りでしたが、コロナ後は開催できておらず、伝統芸能の舞手の高齢化や担い手不足などの課題があります。本事業内での行灯番楽復活を機に、地域の復興とまちおこしに向けて取り組んでいます。
▲伝承芸能「釜淵番楽」 ▲伝承野菜
<真室川町釜淵地区とマッチングした都市部企業>
・日本航空株式会社(日本を代表する航空会社。地域の二次交通課題解決などの新規事業にも取り組む/東京都)
③鶴岡市温海地域
日本で初めてユネスコ食文化創造都市に認定された鶴岡市内から車で40分の場所に位置しており、あつみ温泉街は県内有数の宿など9つの宿があり観光地としても人気がある地域です。温海地域では在来作物の「焼畑あつみかぶ」や「越沢三角そば」、「関川しな織」、「山五十川歌舞伎」などの伝統・文化が継承されています。人口減少や高齢化による地域の伝統や一次産業の担い手不足、若手の働く場所などの地域課題を有していますが、地域の自然や文化体験、保育園留学などをきっかけに地域を知ってもらい、地域への訪問や地域に関わる人を増やす取り組みを行っています。
▲あつみ温泉街 ▲焼畑あつみかぶ
<鶴岡市温海地域とマッチングした都市部企業>
・株式会社ジョイゾー(自治体や企業向けにサイボウズ社の「kintone」導入・運用を行うIT企業/東京都)
3. 現地フィールドワーク
各地域にて都市部企業がそれぞれ1~2回の現地フィールドワークを実施し、地域ならではの体験や協働活動の他、地域のキーパーソンや自治体職員との交流を通じて、地域のビジョンや課題について直接お話を伺い、意見交換・質疑応答を行いました。
3地域ともに都市部企業に対し、地域の皆様から温かい歓迎と心のこもったおもてなしをいただき、交流を通して地域への理解や愛着を深めながら、地域の課題解決に向けて関りしろを見つける貴重な機会となりました。
地域での活動①尾花沢市中刈地区×株式会社アグリエール
尾花沢市中刈地区の地域アドバイザーである若林さん、山口さんにアテンドいただき、株式会社アグリエールからは10月と2月の2回にわたり、合計4名の方がフィールドワークに参加いたしました。10月には地域の特産品である棚田米「雪きらり」の出荷作業や地元で採れたそば粉(最上早生)を使用したそば打ち体験、尾花沢市長への訪問や地域の方との交流会を実施しました。2月には一緒に設営準備をした中刈雪まつりにおいて、地域住民との交流を深めるとともに、地域との連携に向けた具体的な意見交換を行いました。
▲棚田米「雪きらり」の出荷作業 ▲そば打ち体験
▲雪まつり協働活動 ▲振り返りワークショップ
棚田米「雪きらり」は田植え前の作付けを決まる段階ですでにふるさと納税の注文が完売するほど人気です!我々も交流会や中刈雪まつりにて「雪きらり」を使ったおにぎりをいただきました。お米一粒一粒がふっくら大きく、しっかりと歯ごたえがあり、さっぱりしているのが特徴です!
▲意見交換会
中刈地区の皆さまとの交流や意見交換を行う中で、参加者から下記のような感想やご意見をいただきました。
・地元のコーディネーター山口さんや若林さんが的確にコーディネートしてくれたことで効率的にインプットができ良かった。次回は違う季節、特に雪の降る季節のフィールドワークでのインプット機会を得たい。
・この地域に暮らす人たちの幸せの一助となる取り組みをして、地域を未来に残していきたい。
・地域産品のブランディングを通じて地域の生産性を高め地域の担い手の流出を防ぎ魅力的な里山を残す手伝いをしたい。
・第2回目もとてもよかったです。第二の故郷になりつつあります。
地域での活動②尾花沢市中刈地区×アルファコム株式会社
尾花沢市中刈地区の地域アドバイザーである若林さん、山口さんにアテンドいただき、アルファコム株式会社からは、3月4日~3月6日の2泊3日で合計5名の方がフィールドワークに参加いたしました。地域滞在期間中は地域での体験に加え、徳良湖研修センターにてリモートワークを実施いたしました。また、芭蕉清風資料館や銀山温泉視察や竹明かり作り、近隣の細野村にて冬体験としてメープルサップ採集体験を行い、尾花沢市の冬ならではの体験を楽しんでいただきました。地域の方々との交流会では棚田米「雪きらり」や地域内地域内の採れたきのこをふんだんに使用したきのこ鍋や、すいかを漬物にしたぺちょら漬けを振舞っていただき地域の方との交流を行いました。
▲徳良湖研修センターでのリモートワーク ▲尾花沢市長との意見交換
▲細野の冬体験(メープルサップ採集) ▲地域の方との交流会
▲意見交換会
中刈地区の皆さまとの交流や意見交換を行う中で、参加者から下記のような感想やご意見をいただきました。
・山形は今まで行ったことがなく、また雪国での生活体験も始めてでしたが、人のあたたかさと優しさに触れ短い期間でしたが沢山の成長をさせていただきました。
・天候の影響も有り、不安な部分もありましたが、そのような中でも竹明かり作りや意見交換会を実施していただきながら、不安を感じさせないサポートをしていただき貴重な時間を提供いただきました。
・都市部、山間部問わず道路が綺麗に整備されていて、安心して移動ができた。また、意見交換会では、たくさんのイベントとお食事をご用意いただき地元の方々の取り組みや文化に触れることができ、人との交流の大切さを学べた。
地域での活動③真室川町釜淵地区×日本航空株式会社
真室川町釜淵地区の地域アドバイザーである梶村さんと佐藤さんにアテンドいただき、日本航空株式会社からは、2月6日~2月8日の2泊3日で合計9名の方がフィールドワークに参加いたしました。初日はチームビルディング合宿を行い、2日目からは高齢者のお家の除雪ボランティアや郷土料理作り体験を行い、納豆汁やおはぎ作りなどプレ行灯番楽の準備を一緒に行いました。プレ行灯番楽には、地域住民や自治体職員の方々にもご参加いただき、約70名の参加者が集まりました。会場では、迫力満点の「釜淵番楽」や「釜渕林囃子」などが披露され、大いに盛り上がるイベントとなりました。
3日目は促成山菜園場視察やスノーモービル体験、工房ストローの髙橋伸一さんによるわら細工体験を行い、真室川町の雪景色を存分に満喫いただきました。
▲除雪ボランティア ▲地域の方との郷土料理作り
▲プレ行灯番楽※ ▲釜渕囃子
※行灯番楽:行灯を灯し、郷土料理を楽しみながら番楽という伝統芸能を鑑賞すること。
▲スノーモービル体験 ▲わら細工体験
▲意見交換会
釜渕地区の皆さまとの交流や意見交換を行う中で、参加者から下記のような感想やご意見をいただきました。
・真室川町の方々が、日々どういった日常を過ごしているのかを身をもって体験することができました。
・日常生活から離れた場所で、初めてのことを体験させていただけた。
・東京で我々が普段当たり前に過ごしている日常が、真室川や山形の地域の方々の当たり前ではないと学ぶことができた。
・個人として、今後は積極的に周りに真室川町の話をしつつ、随時真室川町の近況を能動的に調べようと思いました(早速、やま富近岡のふるさと納税をさせていただきました!)。近況が気になる地域が一つ増えたことを嬉しく思います。
・今回の繋がりは大切な「ご縁」だと感じております。このご縁を大切にすべく、中長期的な視点で、真室川町、山形県庁が望む施策や方針沿いJALのアセットを提供させていただきたい。今まではプロモーションや観光誘客、インバウンドについての施策をメインに取り組んでいたが、山形県側と同じベクトルを持ち進めたい。
・真室川町のみなさまの心理的ハードルの低さに甘えて、本当に素晴らしい体験をさせていただきました。会社としてはこれから永続的な関係性を考えていきますが、それ以上に個人としてつながり続けたい第3の故郷としてまた来訪してみなさんとワクワクする時間を少しでも過ごしたいと心から感じております。
地域での活動④鶴岡市温海地域×株式会社ジョイゾー
鶴岡市温海地域の地域アドバイザーである青木さんと佐藤さん、温海地域にて自然体験や文化体験を提供している NPO法人自然体験温海コーディネットのジョニーさん、ケイティーさんにアテンドいただき、株式会社ジョイゾーからは、11月と2月の2回にわたり、合計7名の方がフィールドワークに参加いたしました。11月のフィールドワークでは、3名の社員に加え、子供1名の4名が温海かぶの収穫やしな織、イカの一夜干しなどの体験を通じて、地域の伝統や資源に触れ、味わっていただきました。また、廃校を活用した「楯山荘」に宿泊し、地域のおかあさんと一緒に夕食を作り、懇親会を行いました。
2月のフィールドワークでは、副社長、マネージャーを含む3名の方に参加いただき、地域で採れる紅えびを練り込んだ麦きり作りやまち歩きの他、市内在住の女性を対象に、多様な働き方とウェルビーイングの向上を目的とした取り組みである『サンロクIT女子プロジェクト』について、地域団体の方々と、働き方や雇用創出について意見交換をしました。
▲温海かぶ収穫体験 ▲しな織体験>
▲紅えび麦きり作り ▲サンロクIT女子との交流
▲意見交換会
温海地域の皆さまとの交流や意見交換を行う中で、参加者から下記のような感想やご意見をいただきました。
・すべての体験の密度が高く想像を超えていました。知識&手を動かす体験&気候・風景・体感を通して、単なるデータのインプットではないものを得られました。
・プライベートでも再訪し、家族にも同じような体験をしてもらいたい。
・山形の魅力をたくさん感じることができ、とても楽しかったです。また一人でゆっくり行きたいなと思いました!
・すべてのコンテンツがみなさんとの交流ありのもので、コミュニケーションを取りながらできていたところが良かったです。また、体験自体ももちろん良かったですが、何より地元の皆様がものすごく良い人で、積極的にコミュニケーションを取ってくださりとても楽しかったです。
・実際に行くことで初めて知ることができた山形の魅力が多くあったように感じます。現地の人とお話しする機会も多くあり、観光としての側面だけでなく、その土地のリアルな部分を見たり聞いたりすることができ興味深かったです。
・個人としては再訪して別の季節でまたアクティビティ等を楽しめたらと思っています。企業としては、このきっかけを活かして合宿や研修先として利用できればと思っています。
・アクティビティ自体もさることながら、車の移動中の会話もためになることが多くとても楽しめました。(おいしいもの、地域の伝統、趣味の話等々)地方だと二次交通の時間が長いことが多いので、そこが楽しめたのはとても満足感が高かったです。
4. 地域と都市部企業の連携可能性
フィールドワークでは、地域・都市部企業双方の自己紹介や取り組み紹介を行い、地域のキーパーソンや自治体の方から地域への思いや目指す未来に向けた意見交換を行い、地域課題解決と地域の活性化に向けたプロジェクト創出に向けた連携可能性について意見を交わしました。
地域連携①尾花沢市中刈地区×アグリエール株式会社
アグリエール株式会社が得意としている食・農に関する地域資源を活用した商品開発やブランディングの知見を活かし、地域の特産品である棚田米「雪きらり」のブランディングによる販路拡大・新パッケージ化などによる高付加価値商品開発に向けた共創プロジェクトを検討しています。
また、他にも東京などの山形県アンテナショップ「おいしい山形プラザ」に中刈ブースを出店することや、地域課題である耕作放棄地での山ぶどう栽培・商品開発などの案も出ており、次年度以降地域との意見交換を重ね、具体的なプロジェクトを始動させていきます。
地域連携②尾花沢市中刈地区×株式会社アルファコム
株式会社アルファコムのSNSを活用した地域PRにて、中刈地区や尾花沢市の紹介や地域への観光誘致、特産品である棚田米「雪きらり」の広報活動などの連携を検討しています。
尾花沢市は銀山温泉へのインバウンドや観光客が多く訪れていますが、銀山温泉周辺地域への観光誘致が十分でない現状があります。地域の魅力的な資源を広く知ってもらうことで、さらに多くの人々を地域に呼び込む可能性があると感じており、プロジェクト創出に向けて積極的に取り組んでいきます。
地域連携③真室川町釜淵地区×日本航空株式会社
日本航空株式会社MaaSグループは毎年チームビルディング合宿を実施しており、今回は冬の真室川町を体感いただきましたが、季節を変え、地域の異なる魅力を体験したいという希望をいただいており、今後もチームビルディング合宿の場所として地域に再訪していただき、継続的に地域の方々と交流していただくことを検討しています。
また、日本航空株式会社MaaSグループでは、全国の地域の特産品や地域資源を社員向けに販売するイベントを定期的に開催しており、真室川町の特産品であるお米や山菜、伝承野菜などの認知拡大に向けた取り組みも企画しております。さらに、日本航空株式会社と真室川町のコラボ商品開発やJALふるさと納税への出品などもアイディアとして生まれており、このような取り組みの実現を通じて、地域資源をきっかけに多くの方々に真室川町釜淵地区や行灯番楽などの地域の伝統芸能を知っていただく機会を提供し、地域の人々が地域に対する愛着と誇りを持ち、伝統や文化を次世代に継承していけるよう、地域との意見交換を進めていきます。
地域連携④鶴岡市温海地域×株式会社ジョイゾー
株式会社ジョイゾーはチームビルディングとビジネス創出の2つを目的にフィールドワークに参加いただき、両軸で地域との連携を目指しています。株式会社ジョイゾーはリモートワーク勤務が多いため、定期的に部署やチーム合宿などを実施しており、チームビルディングの場所として、非日常空間と地域での体験を通したメンバー間の交流を重視しているため、あつみ温泉街を中心とした地域での滞在価値と自然体験や文化体験など、普段の業務から離れた気づきや学びも魅力に感じていただきました。
さらに、温海地域およびその周辺地域の団体と連携し、「kintone」の自治体や企業への導入を進めるとともに、人材育成を目的としたセミナーの開催も計画しています。また、温海地域からリモートワークを活用して株式会社ジョイゾーの業務に従事する人材の採用も視野に入れており、採用を通じて地域での雇用創出が進むとともに、地域住民が自分らしい働き方やライフスタイルに合った働き方を実現することが可能となります。
また、温海地域でのチームビルディングやセミナーなどの取り組みの発信を通じて、ワーケーション誘致を促進するプロジェクトの創出も進めていきます。
▼今回のフィールドワークの記事も書いていただきましたのでぜひご覧ください!
第1回フィールドワーク: https://note.com/joyzojp/n/n752aa4263afb
第2回フィールドワーク: https://note.com/joyzojp/n/n30da57d00fa5
5. まとめ
今年度、山形県「地域・企業共創による関係人口拡大モデル事業」にて取り組んだ地域は、全国の多くの地域で抱える人口減少や高齢化の課題の他、農村地域特有の課題も有しております。
しかし、各地域が抱える課題や魅力を、フィールドワークに参加した都市部企業の方々と関係人口や関係企業として連携することで、地域課題の解決の糸口が見えてきており、地域の活性化に繋がる未来が見えてきています。
本レポートをお読みの皆さまお一人お一人が持つ地域への興味・関心は、地域との関わりを持つ第一歩となり、地域の活力となります。ぜひ、まずは地域に足を運んでいただき、地域の方々の想いに触れ、地域の人と繋がり、地域を好きになることから地域と関わりを持ってみませんか?
本掲載記事のような地域体験・交流や地域プログラムに関するお問い合わせ・ご相談は下記ENTRYフォームよりお願いいたします。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。
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